『蒼き恋の旅路』第3話 情愛

官能作品

『蒼き恋の旅路』 第3話 情愛

 

変わりゆく時の中で、1つだけ変わらないものがあるとすれば
それは”誰かを強く愛した記憶”かもしれない。

会社の最寄り駅の改札で、懐かしい声が私の名を呼んだ。振り返るとそこには、かつて恋焦がれた男が立っていた。

「えっと……8年ぶり?うそみたい」
「ホント偶然だよな。……なんか見た事ある横顔だなって思って、美久だって気付いた瞬間、考えるより先に声が出てた。驚かせて、ごめん」
「ううん……久しぶりに会えて嬉しいです」

よく行くイタリアンのテーブル席。向かいに座る須山智司はあの頃より小ジワが増えて、目元が少しだけ下がったように感じる。でも前よりずっと渋さが増して、”イイ男”になっていた。

「美久は、あれからどうしてたの?仕事は?」
「念願のデザイン会社に就職して、今はウェブ広告のデザイナーをやってます。でも結構ブラックだから帰りも毎日遅くて……今日は珍しく、早く上がれた日だったの」
「そうか……美久はもう、立派な社会人なんだなあ」
「そうですよお、もう下の子育てる世代ですから!よく「高坂さん、怖い」って影で言われてます(笑)智司……さんは、お仕事は今も変わらず?」
「ああ。今は別の高校だけど……相変わらず生徒たちにいじられてます(笑)」
「あははっ!私も当時、だいぶ先生を振り回してましたよね」
「……」
「……なに?」
「いや……先生って、きみに久しぶりに言われたなって。最後の記憶の中では……俺のこと呼び捨てだったから」
「……そう、だったよね」

彼との恋が終わって暫くの間、私は過去を引きずっていた。でも時間はそんな私の感情に寄り添うことなく、無情に時を刻んでいく。急激に変化していく環境の中、いつまでも同じ場所に留まれない現実が、彼とのことを過去の思い出に変えていく。そうこうしているうちに、また新たな恋もして沢山の男を知った。そんな自分自身の変化にどこか寂しさを覚えながらも、これが生きていくってことなんだって、感じていた。

まさかまた、会えるなんて……。
今目の前にいるあなたは、過ぎ去りし思い出?それとも……

「帰りの時間、大丈夫?その……ご家族は」
「大丈夫です。独り暮らしなので……」
「そうなんだ。付き合ってる人とかは……」
「……今は、いません。智司……さんは?」
「俺も同じく……。良かった……なんて言っちゃまずいかな」
「え?」
「……ごめん。調子いいよな、俺。美久が独りって聞いて、今……すごく嬉しい」

心拍数がものすごい勢いで上がっていることを悟られないように、咄嗟にグラスに残ったワインを口に流し込む。この会話は一体どこに行き着こうとしているの?

「どういう、意味……?」
「言葉のままだよ。……俺あの時、美久の想いを受け止めきれなくて、ずっと後悔してた。泣いてる美久を優しく抱きしめてやれなかった自分を、責め続けた……ごめんな、本当に」
「それはっ……私も同じ。すごく子供だった。智司が仕事頑張ってるのに、素直に応援できなかった。生徒に親身になる智司を近くで見てたら、もうなんていうか、不安しかなかったの。私みたいに智司のこと好きになっちゃう子が現れるんじゃないかって……。自分だけ見て欲しくて、いつも怒ってばっかりだったよね。別れたくなるのも仕方ないよ。……今更だけど、本当にごめんなさい」

心の奥底に長年こびりついていた、後悔が作り出した真っ黒な闇の塊が、淡い光の中に溶けて消えていく。ああ私、本当は彼にちゃんと謝りたかったんだ。自分だけが可哀想だと思って、彼ばかりに責任をなすりつけたこと。沢山、沢山傷つけたこと。もし時間が戻るなら、不満じゃなくてありったけの感謝を、あなたに伝えたかった。

「……俺、今すごく、美久のこと抱きたい」

智司はハッキリ聞こえる声でそう言った。聞き間違いなんて思わせないほどに、強く、真っ直ぐに。更に言葉を重ねる。

「ごめん……多少酔ってるけど、酔った勢いとかじゃなくて……」
「私も……智司ともっと一緒にいたい」

あまりにも素直に、気持ちが言葉になった。
きっと相手が智司だから。智司だから、私は……
彼の大きな手が私の手を強く握りしめる。
そこから先、私達の間に言葉はもう必要なかった。

ホテルの部屋に着いた途端、何かに突き動かされるように激しく唇を重ねる。共通していたのは”埋めたい”という感情。失った時間を。8年という隙間を。燻っていた過去を。

「はあっ……はあっ……あっ、んっっ……」

舌を強く吸い付かれ、口内にピリッとした痛みが走る。8年ぶりの彼とのキスはタバコの苦みを感じない、ミントと赤ワインの味。ずっと封印されていた彼への想いが、甘苦しい痛みと共に勢い良く溢れ出す。

私達は服を脱がせ合いながら、息する間もなくキスを繰り返した。ベッドまでの導線は激しく愛し合い、互いを探り合う道筋でしかない。終着点のベッドに倒れ込み、彼は私の脚の間に身体を滑り込ませた。強引に開かれたその場所は、とっくに愛液で溢れ返っていた。彼は首筋に鼻を押し当て、そのまま強く息を吸い込んだ。

「ああ……美久の匂い……だ」
「だめ……そんな近くで、嗅がないで……」

うそ、もっと私を感じて。私を思い出して。

彼は剥き出しになった乳房を両手でグイっと中央に寄せ、二つの突起を交互に口に含ませる。じっくり転がし、時に甘噛みする。痺れるような快感が身体中を走った。

「ンアアッ!!やあっっ……」
「美久、おっぱい、大きくなった……」
「は、アッ……でも……あの頃みたいな、ハリもないからっ……」
「柔らかくて……すごく、興奮するよ……」

いつの間にか彼の顔は私の脚の間にあった。緊張が、はしる。自然と両足に力が入る。

「そこは……ダメっ。恥ずかしい、よ……仕事帰り、だし……シャワー……浴びてないからっ」
「そのままの美久を味わいたいんだよ」

下着越しに彼の生ぬるい吐息がかかる。それだけで、お腹のはるか下の方にトロリとしたものが溢れ出す。期待と不安が私を同時に襲う。お願い、幻滅しないで……昔の私と比べないでっ……!内腿に力が入る。しかし、ソッとずらされた下着の隙間に入り込む彼の舌の温かさで、身体中の力が真夏のアイスクリームのようにジワジワと溶けていく。彼は固く濡れたクリトリスを舌先で優しく転がしながら、ゆっくりと中に指を挿入した。グチャッといういやらしい音を立てながら、私のアソコは躊躇なく彼の指を飲み込んでいく。侵入してきたソレは上側の壁を強く刺激する。彼が触れた場所が痺れるような熱を持つ。

あ、熱い……ナニ、コレ……どうしようっ、きもち、いい……

猛烈な快感が駆け巡り、身体が勝手に反り返る。私は一瞬で登り詰め、果てた。ぐったりした中で重い瞼を開けると、彼が切なそうに私を見下ろしていた。その顔が耳元に近づく。

「美久……可愛い。感度、めちゃくちゃ良くなってるね」
「そ……うかな」
「うん、すごい……妬ける」
「え……」

彼が突然、私の太ももを担ぎ上げた。

「優しくできなかったらごめん」

ポツリと呟いたかと思うと、一気に私の中に入ってきた。

「ああああああっ……!!」

内側の肉が押し広げられていく。一番奥まで辿り着いたかと思うと、突然いなくなる。寂しさを感じる間もなく、また入ってくる。速度が早まる。二つの身体が激しくぶつかり合う音が響く。強い快感が私の全てを支配する。満たされる。ただひたすらに、彼が私を満たす。あ……なんてこと。こんなにも私は……

8年前の、必死に背伸びしていた自分が蘇る。セックス経験もなかった私は本当は自信なんて皆無で。でもガッカリされたくなくて、自分を偽り続けた。つまらないって思われたくなくて。周りの大人の女性に負けたくなくて。気持ち良さもよく分からないのに強がって感じてるフリして……

だからなの?
今私は彼に全てを曝け出し、そんなことに、泣きたくなるほどの幸せを感じてる。

「んあっ……!!アアッ……さ……とし……、きもち、イッ」

乱れる呼吸の中、必死に彼の名前を呼ぶ。彼は一心不乱に腰を動かし続ける。こんなに激しい彼は私の記憶にいない。さっき彼が発したワードが私の中にも渦巻き、猛烈な嫉妬心に駆られた。

「ナ、マエっ……呼んでっ!!」

自分の声が泣きそうな叫び声になって耳の奥に響く。
だめ、止まらない。

「ア……わ、たしのっ……ナマエっ……」
「みく……美久」
「もっと……もっと、言って!」
「美久、美久っ!」

彼の全体重がのし掛かる。私は両手両足を背中に回し、きつくホールドした。ベッタリとした汗が私の腕と足に絡みつく。それを両手で広げるようにして背中をさすり続ける。彼はその間も、強く私を突き続けた。まるで私の中に息づく別の存在を、必死に掻き出すように。

もう、ダメ……どうしよう、どうしよう、どうしようっ……
涙が、止まらない。
なんで?彼とのセックスが気持ちいいから?彼にまた愛されたことが嬉しいから?ううん、そうじゃない。きっと、長く苦しかった恋が愛に変わったから。ずっと自分が愛だと思っていたものは、独りよがりな欲望の化身だった。でも今は、たしかな愛の存在を身体で感じる。ずっと欲していた。行きたかった場所。与えたかったモノ。

“愛してる”って、きっとこれ。

終わった後、裸のまま布団の中で極限まで体温を交えて抱き合うこの時間に、温かな幸せを感じる。そんなことにまた泣きそうになりながら、そっと彼を見つめる。

「なに?」
「ううん……智司のセックス、すごかった」
「ははっ、なんか照れるな」
「なにが、智司を変えたのかなあ。私と会ってない間に」
「それはこっちのセリフ。抱いてる最中、あの時別れたこと……本気で後悔しそうになったよ」
「でも、さ。あの時の過去があって、今がある。私達はどうしてもお互い離れて成長しなきゃダメだったんだよ。そう思わない?」
「……うん、そうだね」
「でもまたこうして出会えたのは、殆ど奇跡だけどね。ふふっ、日頃頑張ってるから、神様が上手く歯車を合わせてくれたのかな」
「美久、本当に大人になったんだなあ……」
「見直した?」
「うん、なんか今となっては俺の方が子供っぽいかも……女の人ってすごいな」
「ねえ、私は最初、先生だった智司のことすごーく大人の男って感じで憧れてたの。で、その後は1人の男として大好きになった。でも今はね、過去最高にあなたが愛しいの。なんでか分かる?」

智司は黙って顔を横に振った。目線は真っ直ぐ私に向けたまま。

「智司とようやく肩を並べることができて、過去も含めてあなたをやっと心から理解できたから。1人の人間として、あなたが大好きって気付けた。先生なんかじゃない、元先生でもない。あなた自身を、愛してる。あなたの中に眠る弱さも、激しさも、全部含めて」

智司は、言葉を発するより先に、私を引き寄せ強く抱きしめた。苦しい位強く、彼の全身が私を包み込む。

「智司……?」
「うん……ごめん、ちょっと今、顔見られたくなくて」
「……もしかして、泣いてる?」
「そういうことは、聞ーかーなーい」

ねえ智司、私ね。何度でも振り返りたい夜が、3つあるの。
1つ目は、想いを告げた夜。
2つ目は、初めて身体を重ねた夜。
そして最後に、本当の愛を知った夜。
この先なにがあってもきっと、その過去が私を強くしてくれる。
そう思えるから、もう、大丈夫。
どんな未来が訪れようとも、本当に大切なものは決して見失わない。

「美久、いつかきみにちゃんと伝えたいことがある」
「え?何?」
「必ず言う。だからその日まで、俺のそばにいて欲しい。いいかな?」
「……はい」

 

to be continued

 

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