『蒼き恋の旅路』第2話 追憶

官能作品

『蒼き恋の旅路』 第2話 追憶

 

“三歩進んで二歩下がる”。たしか、1960年代のなんとかって歌謡曲に出てきた言葉。遠回りしつつも最終的には一歩進んでるってやつ。多分人生って、その繰り返しだ。でも時に、三歩進んで四歩下がってしまう事もある。そういう時に人は、”やり直したい”と思うのだろうか。

夢を見た。初めて心から愛した男の夢。

夢の中の須山智司は、高校教師だった。教壇に立って数式を教える彼の姿を、私はただ一方的に、熱い眼差しで見つめていた。でも目覚めた脳の中に蘇る彼の姿は、私を女として愛した1人の男だった。

 

彼の恋人になって初めて抱かれた日のことを、今でも鮮明に覚えてる。

私を触れる手つきに、まだ拭い切れない罪悪感を感じた。それでも彼は優しく頬を撫でながら、首筋に顔を埋め、ゆっくり私という人間を受け入れようとしてくれた。

 

「ああ、いい匂いだ。ヤバいな……我慢できない」

 

彼に追いつきたくて、彼と肩を並べたくて、背伸びして付けた香水。彼は私から女を感じ取り、素直に欲情した。シャツのボタンを外す手つきが荒々しくなり、貪りつくように私の身体に激しくキスを落としていく。

 

「高坂さん……可愛い」

 

彼が耳元で小さく囁く。

 

「智司さん、お願い……美久って呼んで」

 

同じくらい小さい声で懇願する。

 

「……美久、好きだよ」

 

あの夜、泣きたくなる位たくさんの甘い言葉をくれた。

 

初めてのセックスは心から愛する人とできたということが、今の私をギリギリ支えていた。過ぎ去った過去は私を苦しめながら、その反対に、堕ち続ける私を何度も救ってくれた。

 

恋人だった半年の間、私は彼のことが好きで大好きで、会う度に、身体を重ねる度に、その想いは増幅する一方だった。そして徐々に……教師という仕事を受け入れられなくなった。彼が仕事を大事にすればするほど、大きな不安が心を支配していった。

 

“仕事より私との予定を優先して”

“生徒にあんま優しくしないで!”

“私を見て。私だけを見てよ!!”

 

湧き出す嫉妬、不安。相手が私より大人なのをいいことに、醜い感情を余すことなくぶつけてしまった。最初のうちは優しく受け流してくれていた彼も、だんだんと様子が変わっていった。長い沈黙の後、一言「もう、終わりにしよう」と言って、悲痛な顔で背中を向けた彼の姿を思い出すだけで、今も胸の奥でドロドロとした感情が込み上げてくる。多分その感情の正体は、”後悔”だ。

 

私は心のどこかで、人生をやり直したいと願ってるの?

あの日、あんな事を言わなければ……

あの時もっと、大人でいられたら……

 

不意に、ベッド横に置いている香水に目が行った。初めてセックスした日の香水。まだ未練がましく同じものを使っているのは、自分が犯した過ちを忘れない為だ。

私はそれを手に取り、プシュッと手首に振りかけた。甘く官能的な、オトナの匂い。この匂いに相応しい女になりたい。苦しみから目を背けるんじゃなくて、立ち向かいたい。

 

過去を捨てるのではなく、超えていかなければ。

 

 

to be continued

 

続き(第3話)はコチラ

 

リビドーベリーロゼ

膣トレ訴求

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。