『蒼き恋の旅路』第1話 加速
『蒼き恋の旅路』 第1話 加速
人生で初めて、悶えるような恋をした。
*
ガヤガヤした店内で、2000年代のR&Bがしっとりと響く。いつも行く安いチェーン店とは違う暗めの照明。私はもう3杯目となるジントニックを、そっと口に流し込んだ。
目の前に座る須山智司は、大人の雰囲気を醸しながら、まるで保護者のような優しい目で私を見つめる。
「高坂さんもすっかり大人だねえ。日に焼けて大きな声出しながらキャプテンしてた頃と、えらい違いだな」
「もう卒業して2年ですよ?お酒の美味しさも多少分かります」
「一杯目に生ビールって言ったときは、少々戸惑いました」
「あははっ!……先生は、変わってませんね」
「この歳になれば2年位じゃ変わらないよ」
「ふふっ。……母校での再会、本当に嬉しいです。先生、最初に声かけた時”誰?”みたいな顔しましたよね」
「いや、あれは……ホントすまん!綺麗にお化粧して、随分と大人びた恰好してたから、一瞬気づかなかったよ」
「もう~在学中、散々仲良くさせてもらってたはずなのに」
「仲良くって……きみが数学出来な過ぎて、一方的に僕を困らせてたんでしょうが」
「へへへ、お勉強は苦手だったもので……。その節は大変お世話になりました」
「いえいえ。高坂さんは、根っからの部活少女だったよなあ。卒業後もOBとして教えにくる位だもんな。今となっては逆に、うちの生徒たちが大変お世話になってます、かな」
「わ!なんか先生にそんな風に言ってもらえるの、超気持ちいい!もう一杯飲んでいいですか?」
「こらこら、さすがに飲みすぎです。……結構酔ってるんじゃない?」
「多少酔ってますけど、全然平気です」
「帰りも心配だし、僕も教師としての責任があるからね。……そろそろ出よう。今日は楽しかったよ」
彼はそう言って、伝票に手を伸ばす。咄嗟に焦燥感が全身を駆け回る。私は、重い足を引きずるようにして先を歩いていく彼の後に続いた。飲み屋街のまばゆいネオンの中を歩きながら、彼はよく知る”須山先生”に戻ろうとしていた。近づいたと思ってもすぐ離れていく。須山先生は、いつだってそういう存在だった。過去の切なさがフラッシュバックして、胸が苦しくなる。気付けば私は、その筋肉質な腕を強く掴んでいた。彼は、驚いた顔をして私を振り返った。
「……先生、私もう……あなたの生徒じゃないです」
「え?」
「ずっと……好きでした。日に焼けた部活少女だった頃から。……数学を教えてもらうのは口実でした。本当はただ……先生と一緒にいたかったんです。先生の特別になりたかったんです」
「高坂さん……」
「困らせてごめんなさい……でも今日会って確信しました。私、今でもあの時と変わらない位、先生のこと好きです。大好きです」
彼は人目を気にしてか、暗い路地裏に私を誘導した。ひとけのない狭い場所に、好きな人と2人。酔った思考は私を大胆にしていく。身体中が、彼に触れたい、彼が欲しいと叫び出す。
「先生、お願いです……キスして」
「……高坂さん、ダメだよ」
「今度は数学じゃなくて、大人のキスを教えて下さい」
「……でも俺は……」
「先生……」
涙を堪えながら、先生を更に強く見つめる。その瞬間、ほんの少しだけ隙間があった彼との距離が0になった。
先に動いたのは彼の方だった。唇から流れ込むお酒とタバコの匂い。彼の舌が私の舌を絡め取り、自分の中へと誘う。乱れる境界線。教師と生徒という箱が壊れて、男と女という艶めかしい生き物が解き放たれる。沸き立つ高揚感。溢れ出す欲望。夜の喧噪の中、いやらしい唾液の音が小さく響く。ああ私……先生とキスしてる。
そっと唇が離れた。彼は暫くの間、すごく気まずそうに沈黙していた。それから、ふっと困ったような笑顔を見せた。
「ごめん……俺、教師失格だな」
「もう、生徒じゃないです……私を、先生の……」
私はかかとをグッと上げて、再び彼の唇に自分の唇を重ねた。
恋が加速する。秘め続けた想いがずっと願っていたその場所へ、ただまっしぐらに走り出す。
to be continued
続き(第2話)はコチラ
2年前にラブコスメさんとコラボした4部作。最終話だけLINEでの限定公開だったのですが、その期限が切れて見れなくなっていました(私もすっかり忘れてたんだけど)・・・。
するとファンの子から先日こんなDMが届きました。
こりゃ大変だとラブコスメさんに掛け合ったところ、ブログ公開して頂いて問題ないという回答を頂いたので、これを機にブログで1話から一気に見れるようにしました!!嬉しいDM本当にありがとう!!あなたのおかげでこうして過去の作品が新たな形で公開できました!!
教師と生徒の愛を描く長編官能作品です。全四話の大作なので、是非これを機に読んでみて!!かなり官能表現が過激なので、覚悟しておいてね!!(笑)
(※最終話だけ男性目線で、それはそれでなかなかのエロさです・・・)
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